「1よ…目覚めよ…」
この声と共に1は目覚めた。
目の前には男が玉座に座っており、1をナナフシを見る目で見つめている。
「我が名は魔王コーガである…」
「いや古賀だろてめぇ!!」
エダナナフシは叫んだ。おそらく目の前に居るのは古賀である。
というか、ここは1の部屋である。
『うぃんゔぃっ荘ぉい』の102号室にこの男はさも自分の部屋かのようにいる。
魔王コーガは矢継ぎ早に喋りだした。
「1よ…真のナナフシになりたいか?」
唐突すぎる。どう考えても切り出し方がおかしい。何の前触れもなく「真のナナフシになりたいか」と聞かれて黙ってる1ではなかった。
「なりたくねぇよ!!!」1は脊髄反射で答えた。
「そうか…なりたくないか…」
「何拗ねてんだよ!」
古賀は拗ねていた。あの古賀がである。
古賀はここ、『うぃんゔぃっ荘ぉい』の101号室の住人である。親は某有名な商業会社の社長であるが、後とりになるのが嫌で一人暮らしを始め、現在では親からの仕送りと生活保護のお金で暮らしている。
1はこの無機質の集合体こと古賀が人間らしさを示したことにちょっとの母性と安心感を覚えた。
「ところで市…」
「俺は織田信長の妹じゃない!いち違い!」1は安田大サーカスのクロちゃんばりに突っ込む。
「あれ…お1の方じゃない?」
「お市の方をお1の方って言わねぇだろ!」
「じゃあわんさん?」
「何だよその中国人みたいな1の呼び方!」
「位置」
「1!」
「ミッチー」
「1!」
「which」
「何で英語の疑問形と間違えるんだよ!」
上記のように数字と人間が言論をつばぜり合わせる。
これは、いつしか102号室の日常になっていた。
1は本当は101号室に住みたかった。101の数字には我が1が相応しいと思っていたからである。しかし、タイミングよく1の少し前に部屋を確保していたのが古賀だった。タイミングよくである。
そのせいで1は、空き部屋の102号室に住むこととなった。1は101号室の件について、未だに古賀を恨んでいる。
「1…。お前を何故ここに呼び出したか分かるか?」突然、古賀が1に切り出した。
「呼び出されてんじゃねぇよ!ここ俺の部屋だから!」と1は答える。
「そうか…てやてやてやぁ!!!」古賀が突如叫んだ。
このとき1は無機質大権現こと古賀が「てやてやてやぁ!!!」と叫び出したことに戸惑いつつも古賀も人間なんだなという安心感に見舞われた。
そして1はみるみるうちに突然変異を起こした。
「うわっ!何だこれ!」
1は漢数字の一に変換された。
しかも明朝体のほうでなく、習字体でである。
よりによって習字体が生き生きとした「一」を表現してしまい、主張を強くしてしまって恥ずかしい。
「さあ、一。新たな世界に行くのです…。」
「こんなんじゃ細い道とか通れねぇだろぉ!!バイト先に行くのに近道できなくなっちまったじゃねぇかバカぁ!!」
そういいながら一は異世界へと飛ばされていった。
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「ここジャングルじゃねぇか!!!」
一はジャングルに飛ばされていた。
一は早速、自分のステータスを見た。誰から支持を受けてやっているわけでもなく。嫌々ジャングルに飛ばされているわりにはしっかりこの世界のルールに順応する、それが一である。
〈たいりょく0.05、ちりょく0.02、ぶりょく0.01
にんたいりょく0.01 まりょく0.02〉
「視力検査かよ!」1は叫んだ。
なかでも一が気に食わなかったのはちりょく0.02の部分である。
一は高校のときに漢検3級を取っている。また、英検も3級を取っている。そんな一のちりょくが0.02で済まされていいわけがない。
一はとても憤りを覚えた。
それと同時に一は恐怖を覚えた。
「こんな得体のしれないジャングルでこんな横に長いだけが取り柄の一が生き残れるのだろうか…。」と。
このジャングルは、数字で例えると0〜9までの多様な数字がうじゃうじゃいる世界である。
そして、四捨五入されない強さを持った5〜9の数字が多くいる過酷な環境である。
テトリスで扱いやすい形状なのだけが取り柄の一が生き残るには、容易でないステージなのは明確だった。
一の心が、人間の足で踏まれた道端の小枝のように「パキッ」と折れたように覚えた。
続く。

